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神戸地方裁判所 昭和61年(ワ)569号 判決 1988年12月22日

原告

中谷一彌

被告

田中誠一

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告(請求の趣旨)

1  被告は原告に対し、金七四三万一六七六円と内金六七六万一六七六円に対する昭和五五年九月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告(請求の趣旨に対する答弁)

主文同旨の判決

第二当事者の主張

一  原告(請求原因)

1  交通事故の発生

(一) 発生日時 昭和五五年九月一六日午前八時四〇分ころ

(二) 発生場所 神戸市中央区布引新神戸トンネル南杭口北約一・二キロメートル南行車線

(三) 加害車両 普通乗用自動車(神戸五七ふ七〇五八)

右運転者被告

(四) 被害車両 軽四輪乗用車(八八神戸四七)

右運転者原告

(五) 事故態様 加害車両が被害車両に追突

2  責任原因

被告は、民法七〇九条(前方注視義務違反)、自賠法三条により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

3  受傷・治療経過及び後遺症

原告は、本件事故により、頸部捻挫、左手第一指MP関節変形の傷害を被り、睡眠障害、頭重感、四肢のしびれ感、耳閉塞感、焦躁感、流涙、根気力の欠如、脳波軽度異常の症状の改善のため、昭和五五年九月一六日から同年一一月二五日まで金沢三宮病院に(実治療日数二一日)、昭和五五年一〇月一八日から昭和五六年一一月六日まで藤井外科病院に(実治療日数一六五日)、昭和五五年九月二九日から昭和五六年八月一七日まで神戸市立中央市民病院に(実治療日数四日)、昭和五六年七月三〇日から昭和五八年六月一〇日まで福島クリニツクに(実治療日数七九日)、昭和五七年一一月二九日から昭和六〇年一〇月九日まで神戸大学医学部付属病院に(実治療日数四日)各通院して治療を受け、右傷害は、昭和五八年六月一〇日、睡眠障害、頭重感、四肢のしびれ感、耳閉塞感、焦躁感等の自律神経症状の後遺症を残して症状固定した。

4  損害

(一) 治療費 金一一三万三四七五円

内訳

金沢三宮病院分 金一五万三八二〇円

藤井外科分 金六〇万七五六五円

神戸市立中央市民病院分 金九万二五二〇円

福島クリニツク分 金二六万六七〇〇円

神戸大学医学部付属病院分 金一万二八七〇円

(二) 通院交通費 金一八万九五五〇円

内訳

金沢三宮病院分 金一万四五八〇円

神戸市立中央市民病院分 金一万五二一〇円

藤井外科分 金九万五二八〇円

福島クリニツク分 金六万四四八〇円

(三) 休業損害 金六八五万九九二三円

原告は、本件事故当時株式会社神港工業所に勤務する製缶工であつたところ、本件事故による傷害及び通院治療のため、昭和五五年九月一六日から昭和五九年七月三日までの間に合計六二六日間右会社を欠勤した。

右欠勤により支払を受けられなかつた給与、賞与は合計金六三三万四八三三円となる(なお、昭和五九年四月ないし七月については、健康保険から傷病手当金として休業損害の六〇パーセントにあたる金員の給付がなされたから、その間の損害は右金員を除いた金員四一万六〇五二円となる。)。

また、原告は本件事故のため、有給休暇の資格喪失により合計金四一万五九一〇円(昭和五七年・一六日分・金一一万九〇四〇円、昭和五八年・一八日分・金一三万八六〇〇円、昭和六〇年・一九日分・金一五万八二七〇円)、皆勤手当の喪失により合計金一〇万九一八〇円(昭和五七年・金二万二三二〇円、昭和五八年・金二万三一〇〇円、昭和五九年・金六万三七六〇円)の合計金五二万五〇九〇円の損害を被つた。

(四) 通院慰謝料 金一六〇万円

(五) 後遺症逸失利益 金三六四万三七〇二円

自賠法施行令別表第一二級第一二号相当との自賠責認定あり。

労働能力喪失率二〇パーセント

労働能力喪失期間六年(ホフマン係数五・一三三)

基礎年収金三五五万円(昭和五九年年収)

(六) 後遺症慰謝料 金二〇〇万円

(七) その他の損害 金一九万〇三二〇円

原告は、前記後遺症に苦しみ、医師・知人に勧められ、昭和五五年一〇月から週四回程度平野温泉に通つているところ、その温泉入湯料、交通費は合計金一八万六〇〇〇円となる。

また、原告は、自賠責保険の請求、後遺障害の等級認定のため、保険会社や調査事務所へ事情説明のため何回も出頭を余儀なくされたところ、その交通費は金四三二〇円となる。

(八) 既受領金等 金八八五万五二九四円

以上、(一)ないし(七)の損害金小計は、金一五六一万六九七〇円となるところ、原告は、被告から本件損害金として金五五六万五二九四円の支払を受け、また自賠責保険金として金三二九万円の支払を受けたから、これを右損害金小計から控除すると、未収損害金は、金六七六万一六七六円となる。

(九) 弁護士費用 金六七万円

5  結論

よつて、原告は被告に対し、金七四三万一六七六円と内金六七六万一六七六円に対する本件事故発生の日である昭和五五年九月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告(請求原因に対する認否・反論)

1  請求原因1、2、4(八)の各事実は認めるが、その余の請求原因事実はいずれも知らない。

2  本件事故により、被害車両は後部に損傷を受けているところ、その損傷は、修理代金一万九三〇〇円を要する程度の軽微なものであつたから、本件事故により原告主張のごとき傷害が生じるはずがなく、本件事故と原告の傷害との間には相当因果関係がない。

3  原告は、本件事故により頸部捻挫及び左側頭部外傷の傷害を受けたが、右傷害は昭和五六年一一月六日症状固定した。原告は右症状固定後も福島クリニツクに通院を続け、同クリニツクから昭和五八年六月一〇日を症状固定日とする後遺症診断書の発行を受けた。

しかしながら、原告は、昭和五八年一月二三日、自動車運転中にタクシーに追突される事故(以下「別件事故」という。)にあつており、同日以降の原告の症状は別件事故の寄与によるものというべきである。なお、本件事故による被害車両の修理代金がわずか一万九三〇〇円であつたのに対し、別件事故による原告乗車車両の損傷は修理代金六万八〇〇〇円という相当大きな損傷であつたから、原告主張の損害はかなりの部分が別件事故によるものというべきである。

4  本件事故による原告の受傷については昭和五六年一一月六日に症状固定となつているのであり、その後の通院及び後遺症と本件事故とは相当因果関係はない。

仮に、右症状固定日以降の通院が本件事故によるものであるとしても、本件事故と因果関係のある通院は別件事故発生日までのそれであり、右期間を越える通院を前提とした原告の損害主張は不当である。

第三証拠

本件記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(本件交通事故の発生)、同2(責任原因)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  受傷・治療経過及び後遺症

原告は、本件事故により約四年に及ぶ通院治療を要する傷害と自賠法施行令別表第一二級に相当する後遺症を被つたと主張するのに対し、被告はその存在ないし因果関係を争うので、原告の傷害及び後遺症の内容・程度並びに本件事故との因果関係について検討する。

1  成立に争いのない甲第一三ないし第一七号証、乙第一号証、乙第二号証の一ないし六三、乙第三号証の一ないし一二四、第四ないし第六号証、乙第七号証の一、二、乙第八号証、乙第九号証の一ないし五二、乙第一〇ないし第一八号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一ないし第三号証、証人別府彰の証言、原告本人尋問の結果並びに鑑定人医師別府彰の鑑定の結果によれば、次の事実が認められる。

(一)  原告は、本件事故後、次の(二)ないし(五)記載のとおり各病院に通院して治療を受けたところ、カルテ、診断書の記載から認められる原告のその間の傷病名、主訴、検査結果、医師の所見等は、別紙「原告の受診状況一覧」記載のとおりである(鑑定人医師別府彰のまとあによる。)。

(二)  原告は、本件事故により昭和五五年九月一六日から同年一一月二五日までの間、金沢三宮病院に通院(実通院日数二一日)して治療を受けた。その治療経過は同病院のカルテが廃棄されているため必ずしも明らかでないが、原告の主訴は、左側頭部・項部痛、肩の疼痛、左耳の閉塞感であり、レントゲン所見は、項中隔石炭化を認めるほかは特記すべき所見は認められなかつた。なお、原告は昭和五五年九月二九日から昭和五六年六月一〇日までの間、四回、神戸市立中央市民病院耳鼻科に通院した。

(三)  右金沢三宮病院の医師の紹介により、原告は、昭和五五年一〇月一八日から昭和五六年一一月六日までの間、藤井外科病院に通院(実治療日数一六五日)して治療を受けた。

(四)  右藤井外科の治療後(当初は並行して)、原告は昭和五六年七月三〇日から福島神経科診療所(神経科・精神科。福島クリニツク)に通院し、昭和五七年一二月二七日まで、頭部外傷後遺症、外傷性神経症の病名で治療(国民健康保険を使用)を受けた。他方、同クリニツクでは、社会保険により別の診療録を作成して昭和五六年一一月一九日から昭和六一年七月九日まで(四回診療録を更新。ただし、最終の診療録は被爆者手帳によるもの。)、自律神経症、神経炎、高脂血症、動脈硬化症、肝障害等の病名で、カウンセリング、投薬等の治療を受けた。そして、昭和五六年一一月一九日から昭和五七年一二月二七日までの治療は、右国民健康保険による治療と社会保険による治療が並行して行われたとする診療録の記載となつている《例えば、昭和五六年一一月二七日の治療は、社会保険診療録には「精神科治療カウンセリング」(乙第三号証の一)と、国民健康保険診療録には投薬処方のみが(乙第三号証の三八)各記載されているなど、担当医師である福島幸雄医師は、右診療録の書き分けにより、本件事故による傷害の治療とそれ以外の治療とを区別していたものと窺われる。》。

(五)  福島医師の紹介により、原告は、昭和五七年一一月二九日、同年一二月六日、同月一三日の三日間、頸部捻挫後遺症の疑いの病名で、神戸大学医学部付属病院整形外科(以下「付属病院」という。)の診察を受けた。福島医師の付属病院医師に対する紹介状には、「原告は頭部外傷後遺症で受診中の方ですが、昭和五七年一〇月初めから左手第二・第三指、右前腕の鈍痛・しびれ感を訴えております。原告は本件事故により頸椎捻挫の傷害を受傷された方ですが、右現症状と本件事故とは関係があるでしようか。」旨の質問事項の記載があつたところ、付属病院医師の診断・回答は、「原告の頸部の運動は良好で、原告に圧痛点や神経叢の放散痛、病的反射、知覚異常はみられず、筋萎縮もはつきりせず、ほとんど神経症状もなく、原告の現症状と本件事故と関連があるかどうかはわからない。」旨のものであつた。

(六)  藤井外科の藤井忠男医師作成の後遺症診断書(甲第一号証)には、「昭和五六年一一月六日症状固定。項部の緊張感ないし頸部運動による疼痛、左大腿外側部の倦怠感・しびれ感、頭重感、耳閉塞感、不眠、流涙等の後遺症残存」なる記載が、福島幸雄医師作成の昭和五八年六月一〇日付後遺症診断書(甲第二号証)には、「昭和五八年六月一〇日症状固定。睡眠障害、頭重感、四肢のしびれ感、耳閉塞感、焦躁感等の自律神経症状、精神症状が自覚症状としてみられる。昭和五六年七月及び昭和五七年四月の検査では、脳波所見として、不規則徐波を認め軽度の異常脳波が認められたが、昭和五八年二月の検査では改善され正常範囲であつた。就労能力に支障を及ぼす程度ではない。」なる記載が、同医師の昭和五九年五月二八日付後遺症診断書(甲第三号証)には、右昭和五八年六月一〇日付のそれと同一の記載に加えて「昭和五九年四月の脳波検査では不規則徐波を認め、軽度の異常脳波を認めた。」旨の記載がある。

(七)  原告は、福島医師の昭和五八年六月一〇日付後遺症診断書を資料に、自賠責保険金(後遺症)につき、自賠法施行令別表第一四級の認定を受け、さらに、同医師の昭和五九年五月二八日付後遺症診断書を資料により再審査を受け、自賠法施行令別表第一二級の認定を受けた。

(八)  鑑定人医師別府彰作成の鑑定書及び同人の証言(以下「別府所見」という。)によると、別府所見は、関係カルテ等の記載から認められる原告の症状は昭和五七年一二月二〇日には症状固定しているものと認めるのが相当であり、右は福島医師の国民健康保険による診療経過とも合致するとの見解である。そして、脳波所見については、異常と思われたのは睡眠時のものとも考えられ、異常とは断定できず、仮に異常があつたとしても治療により正常化しているところ、後遺症の内容は、「睡眠障害・頭重感・四肢のしびれ感・耳閉塞感・焦躁感等の自律神経症状の自覚症状」であり、その程度は自賠法施行令別表第一四級(脳波所見を重視すれば同一二級)程度のもの(ただし、就労能力に支障を及ぼす程度ではない。)、要休業期間としては昭和五七年一二月二〇日までが相当であるというのである。

(九)  原告は、昭和五八年一月二三日、普通乗用自動車を運転中、訴外小川公行運転の普通乗用自動車に追突される交通事故(別件事故)に遭遇し、頸椎捻挫の傷害を受け、昭和五八年一月二三日から同年一二月二一日まで藤井外科に通院(実治療日数三一日間)して治療を受け、藤井医師作成にかかる昭和五九年一月一〇日付後遺症診断書(項部の緊張感・両側肩の緊張感ないし肩凝り感・右耳鳴り感・右手第二第三指から右手背にかけてのしびれ感の自覚症状。ただし、他覚所見はない。)を資料に自賠責後遺症保険金の支払を求めたが、非該当となつた。別件事故については、昭和五九年三月三〇日、訴外小川公行との間で、治療費のほか金一七一万三七六〇円の支払を受ける旨を骨子とする示談が成立している。また、別件事故による原告の車両の修理費は金五万八九一〇円、本件事故によるそれは金一万九三〇〇円であつた。

2  以上の認定事実を前提に検討する。

(一)  原告の傷害及び後遺症の程度、症状固定時期に関する前記1(八)認定の別府所見は、医学者による外傷性神経症と交通事故との因果関係等に関する平均的な見解として尊重すべきものであり、おおむね首肯することができるものというべきである。そして、前記1(六)認定の藤井医師及び福島医師の症状固定及び後遺症に関する所見は、前者については、精神的・神経的症状を除く整形外科的な後遺症に関する所見と理解し、後者については、精神的・神経的症状に関する所見(なお、福島医師の前認定の診療録の書き分けは、同医師が原告の症状は昭和五七年一二月ころ症状固定したものと考えていたことを推測させる。)と理解すれば、必ずしも右別府所見と矛盾する所見ともいえないものと解される。

(二)  従つて、原告は本件事故により受傷(頸椎捻挫)し、右傷害は前記1(六)の後遺症を残し、昭和五七年一二月二〇日症状固定したものと認めるのが相当である。そして、その後遺症の程度は、前認定の原告の後遺症の実態に照らすと、自賠法施行令別表第一四級相当のものと認めるのが相当である。

三  損害

1  治療費 金一〇四万五六六〇円

前記二認定の事実によれば、昭和五七年一二月二〇日までの間の治療費についてのみ本件事故と相当因果関係のある損害というべきところ、いずれも成立に争いのない甲第八号証の一ないし四、甲第九号証の一ないし三、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六号証、甲第七号証の一、二、甲第七号証の三の一、二、甲第一〇号証の一ないし三によれば、右期間の治療費は、金沢三宮病院分金一五万一八二〇円、藤井外科分金六〇万七五六五円、神戸市立中央市民病院分金九万二五二〇円、福島クリニツク分金一八万四六八五円(ただし、前掲甲第一〇号証の三によると、昭和五六年七月三〇日から昭和五八年六月一〇日までの六八一日間の同クリニツクの治療費の合計額が一九万五二〇〇円であることは認められるが、本件証拠上、そのうち昭和五七年一二月二〇日までの治療費がいくらであるかは明らかでないところ、右六八一日のうち昭和五七年一二月二〇日までの五一〇日分の治療費として割合的に計算した金一四万六一八五円をもつて本件事故と相当因果関係のある治療費損害と認め、これに昭和五六年七月三〇日分の治療費金二万三〇〇〇円と脳波検査代金一万五五〇〇円を加えたもの。)、神戸大学付属病院分金九〇七〇円の合計金一〇四万五六六〇円であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  通院交通費 金一二万六三九〇円

前認定のとおり、原告は本件事故により昭和五七年一二月二〇日まで前認定の各病院に通院して治療を受けることを余儀なくされたものというべきところ、原本の存在及び成立に争いのない甲第一二号証の一ないし三、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、昭和五六年四月二四日までの通院交通費は合計金五万三八九〇円であることが認められる。そして、昭和五六年四月二五日以降昭和五七年一二月二〇日までの実通院日数は、前掲甲第七号証の三の一、二によると藤井外科に七九日間、前認定のとおり神戸中央市民病院に四日間、付属病院に三日間、福島クリニツク(前認定の治療費と同じく右期間の実通院日数も本件証拠上必ずしも明らかでないが、前同様、通院期間総日数六八一日中実通院日数七九日の割合で昭和五七年一二月二〇日までの通院期間総日数五一〇日中の実通院日数を推計した五九日をもつて右期間の実通院日数と認める。)に五九日の合計一四五日間と認められるところ、右期間の通院交通費としては、交通手段その他右通院の具体的状況について的確な立証のない本件にあつては、一日五〇〇円の割合で計算した金七万二五〇〇円をもつて相当であると認める。

以上、本件事故と相当因果関係の認められる通院交通費は、合計金一二万六三九〇円となる。

3  休業損害 金四九〇万八五二一円

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四号証の一ないし二五並びに原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故当時製缶工として株式会社神港工業所に勤務していたこと、昭和五七年一二月二三日までの本件事故による欠勤等により原告に支給しなかつた給与等の合計額は金四九〇万八五二一円となる旨の右勤務先会社の各証明書が作成されていることが認められるところ、前認定の原告の症状・治療経過に鑑みると、右各証拠は右金額をもつて本件事故による休業損害と認めるには必ずしも十分ではないとの疑問もあるが、弁論の全趣旨によれば、原告は右資料を提出することによりすでに自賠責保険及び被告から休業損害の名目で右金員を受領していることが窺われるから、右原告・被告間の従前の経過をも勘案して、右金額をもつて休業損害と認めることとする。右認定額以外に休業損害費目で原告が主張する損害について、これを認めるに足りる的確な証拠はない。

4  通院慰謝料 金一〇〇万円

前記本件事故の態様、原告の傷害の部位・程度、治療経過、通院期間(実通院日数約二四九日間)その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、本件事故により原告が被つた通院期間中の精神的苦痛を慰藉すべき金額としては、金一〇〇万円をもつて相当であると認める。

5  後遺症逸失利益 金二五万六〇一二円

前認定の原告の後遺症の内容・程度に鑑みると、原告は、本件事故による後遺症のため症状固定日の翌日である昭和五七年一二月二一日から二年間(ホフマン係数一・七〇二九。ただし、四年のホフマン係数から二年のそれを引いて得られた係数)、平均してその労働能力を五パーセント喪失したものと認めるのが相当であるから、右労働能力喪失率及び労働能力喪失期間並びに前掲甲第四号証の三により認められる原告の本件事故当時の月収二五万〇五六五円(年収三〇〇万六七八〇円)を基礎に、原告の後遺症逸失利者を算出すると、次の計算式のとおり、金二五万六〇一二円となる(円未満切捨。以下同じ)。

3,006,780×1.7029×0.05=256,012

6  後遺症慰謝料 金一〇〇万円

前認定の原告の後遺症の内容・程度その他本件にあらわれた諸般の事情を総合考慮すると、原告が右後遺症により被つた精神的苦痛を慰藉すべき慰謝料としては金一〇〇万円をもつて相当であると認める。

7  その他、「その他の損害」として原告が主張する損害(請求原因4(七)記載のとおり。)については、本件全証拠によるも、本件事故と相当因果関係のある損害であることにつき、これを認めるに足りない。

8  損益相殺

右1ないし7の損害金合計額は、金八三三万六五八三円となるところ、請求原因4(八)の事実(原告が自賠責保険及び被告から合計金八八五万五二九四円の支払を受けていること)は当事者間に争いがないから、原告はすでに右損害額を上回る損害のてん補を受けているものというべきである。

四  以上の検討によれば、原告の本件請求はすべて理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉森研二)

(別紙) 原告の受診状況一覧

金沢三宮病院 55.9.16~55.11.25 左側頭部痛、項部痛、肩の疼痛 X線・項中隔石灰化

中央市民病院 55.9.29~56.6.10 耳鼻科

藤井外科 55.10.18 初診 左耳の閉塞感、右側屈時左頸部の疼痛X線所見金沢三宮病院と同じ

55.11 左側頸部の運動時の重い感じ。痛みではない。

大後頭神経痛(-)、不快感、左肩緊張感

55.12 頸部の左右側屈・前後屈にて同部の緊張感ないし疼痛を訴える。安静時にも同部の違和感・圧迫感があるという。

56.2 長時間運転にて愁訴(+)

56.6 遠出運転では項部・肩の硬化感(こる感じ)、眼の倦怠感、長距離走行にて涙流出

56.8 起床時頭重感あり欠勤。不眠は福島医師の薬で軽快。

目薬をさすと目のうえ・額がぴくぴくとけいれん。

入浴すると充血。

56.11 頸部の左右側屈・前後屈にて左頸部の緊張感ないし疼痛を訴える。頸部の運動障害はないが、ある程度の頸椎運動に際して漸次増強する疼痛がある。症状は固定したと考えられる。その他、軽度ではあるが頭重感、不眠、耳閉塞感、流涙、根気力の欠如、左大腿の違和感等を訴える。

神戸大学病院整形外科 57.11~57.12 頸椎捻挫後遺症の疑い。頸部の運動良好で圧痛点や腕神経叢の放散痛はみられない。反射正常、病的反射みられず。左親指と示指で完全な〇ができないが、第一指NP関節に変形が存在する。筋萎縮ははつきりせず、握力は右41キログラム、左39キログラムで知覚障害も認めない(57.12.13)。

(福島医師への私信中の記載)本件事故と関連あるかどうかわかりません。ほとんど神経症状もありません。(診療録中の記載)しびれ感は57.10月よりおぼえる。日常生活・仕事に支障なし。

レントゲン所見 前屈時にてC1~C4軽度の階段様変形あり。

福島クリニツク国民健康保険 56.7.30~ 6~8月は肝臓が悪くなつている。10月不眠は少しまし。風呂に入ると頭重感。「56.7.30初診時睡眠障害、四肢しびれ感、耳閉塞感、頭重感、前額部の異常感等が続いていた。」(58.6.29発行の診断書)

脳波所見d優位、後頭部中心ねむけで群発境界線級

社会保険 56.11.19~57.9.25 所見の記入少ない。1か月平均4・7回通院。傷病名自律神経症、神経炎、肝障害の疑い→高脂血症

社会保険 57.10.1~58.7.25 新規にカルテ作成。朝握つた時腫れはないの記録のみで開始されている。

社会保険 59.3.25~59.8.20 新規カルテで診療開始。しんどい。抑うつ的。傷病名自律神経症、動脈硬化症、肝障害、神経炎。3.16来週から休みたいという。3.26肝障害と説明。57本年1~2月にも交通事故と述べる。脳波僅かに異常。神経炎と診断するに足りる症状の記載は全くない。

社会保険 59.3.15~61.1.18 60.2.8開始。初診時頭重感、夜よく目がさめる。発症は59.3月ころ。症状は軽く、訴えも少ない。

社会保険・被爆 59.3.15~61.7.9 61.2.3診療開始。終診61.7.9。脳波正常

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